今読み返す「孫子の兵法」と事業所戦略

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皆様こんにちは。
システム担当のまるです。

現在開発中の新システム「あかネット」では、特養・ショートシステムなどの業務システムと共に、経営情報システムも開発する予定になっています。

経営情報システムとは、法人の経営・管理などの意思決定に必要な情報を収集・分析するためのシステムです。具体的には、日々の売上や稼働率などをリアルタイムで確認でき、目標や設定した指標の達成度と照らし合わせることで、戦略や戦術の軌道修正を迅速に行えるようになる、というものです。

「戦略」とは目標達成に至るストーリー(シナリオ)で、「戦術」とは戦略というストーリーの中で、達成すべき個々の課題に対する具体的な手段(作戦)です。
一般的に「戦術の失敗は戦略で補うことができるが、戦略の失敗は戦術で補うことはできない」と言われており、どのような戦略を立てるかは法人にとって非常に重要な事柄です。

この戦略を考える上で、2500年前に著された「孫子の兵法」は、今でも戦略教科書として名高い古典です。

経営情報システムの開発にあたり介護事業所の戦略について勉強しようと、若いころに読んだ「孫子の兵法」を読み返してみると、当時は抽象的な原理・原則としてしか読めなかった格言が、社会人としての今までの経験から具体的な事例に当てはめて考えられるようになったことで、より一層面白く感じました。

そこで今回は、「孫氏の兵法」と事業所戦略について書きたいと思います。

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「孫子の兵法」とは

「孫子の兵法」の著者は、中国の春秋戦国時代に呉という国に仕えた兵法家、孫武と言われています。(この当時の逸話として「臥薪嘗胆」や「呉越同舟」が有名です)

「孫子の兵法」は全十三篇から成る兵法書で、武田信玄が孫子の一節から引用した「風林火山」の旗印を使っていたことは有名です。また、フランスのナポレオンや、マイクロソフトのビル・ゲイツなど愛読者が多いことで知られています。

「孫子」以前は、戦の勝敗は天運に左右されるという考えが強かったのですが、孫武は戦の記録を分析・研究し、勝敗は運ではなく人為によることを知り、勝利を得るための指針を理論化して後世に残そうとしたと言われています。

「孫子の兵法」と事業所戦略

彼を知り己を知れば、百戦して殆うからず(謀攻篇)

孫子で最も有名な一節です。
彼を知るとは、経営環境、顧客ニーズや競合の動き(機会・脅威)をつかむことであり、己を知るとは、自法人の資源や経営成績などの状況(強み・弱み)を把握することです。

孫子はこのくだりで以下のように述べています。

・戦ってよい時と戦うべきでない時をわきまえていれば勝てる
→機会・脅威・強み・弱みを正確に把握して対応する

・兵力に応じた戦いかたを知っていれば勝てる
→事業所の規模に応じた適切な戦略を立てる

・上下の人々が心を一つに合わせていれば勝てる
→経営者、管理職、職員の意思相通が出来ている

・万全の態勢を整えて油断している敵に当たれば勝てる
→しっかり準備して小規模で見逃されやすい事業領域で勝負する

・将軍が有能で主君が将軍に干渉しなければ勝てる
→有能なリーダーを育てて任せきる

だから、彼を知り己を知れば、百戦しても敗れることはない。

百戦百勝は善の善なる者に非ず、戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり(謀攻篇)

百戦百勝は普通に考えればすごいことですが、孫子はそれを否定し、戦わずに勝つことが最善だと説きました。

戦えば、例え勝ったとしても無傷ではいられません。値引き合戦に勝っても利益が少ないと考えれば分かりやすいと思います。

ゆえに、競合他社との局地戦(顧客の争奪戦)に勝ったからといって喜ぶのではなく、競合のない市場を開拓し、新しい市場を作りだすことが最善の戦略となります。

勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝を求む(軍形篇)

戦いの前に勝敗は十中八九決まっている、というのが孫子の考え方です。

勝つための仕込み、仕掛けを入念にした上で、これなら勝てるというストーリーを描き、その上で戦に踏み切るべきで、ろくに準備もせずに戦いを始めて、あとになってどうするかを考えているようでは話にならないと述べています。

とにかく作ったから売ろうではなく、詳細なマーケティング調査を行い、「売れるものを作る」ことが重要で、冒頭で述べた「戦略の失敗は戦術で補うことはできない」と繋がるところがあると思います。

卒を視ること嬰児(えいじ)の如し、故に之と深谿(しんけい)に赴むくべし。卒を視ること愛子の如し、故にこれと倶(とも)に死すべし(地形篇)

優秀な将軍(リーダー)は、その部下である兵士(職員)をまるで我が子のように深い愛情を込めて見守っているのだと孫子は言います。だから、いざという時に危険な深い谷底にもついてくるし、命を投げ出して共に戦おうとしてくれます。

法人は目的集団である以上、上司は部下を育てることを考えなければならないので、厳しい指導も必要な時があります。しかし、その根底に愛情があってこそ、厳しい指導にも部下は納得してくれるのではないでしょうか。

我は専にして一となり、敵は分かれて十となれば、これ十を以ってその一を攻むるなり(虚実篇)

兵数が同じ場合、こちらが一つに集中して、敵が十に分断されれば、こちらは十倍の戦力で相手の一の戦力を相手にすることが出来る、という意味です。

いわゆる、有名な経営学者であるマイケル・ポーターの唱える「選択と集中」です。
ターゲットを広くした同業者よりも、狭いターゲットに絞るほうが、より効果的で効率のよい戦いができ、特定のターゲットのニーズを十分に満たすことで差別化または低コストを達成できる、という考え方です。

戦後最大の「選択と集中」の成功事例と呼ばれているのがアサヒビールのキリンビールに対するビールシェアの逆転劇です。

1980年代の半ばまでビール業界はキリンが寡占に近い形をとっており、アサヒは明日潰れてもおかしくない状況でした。そこでアサヒは、キリンと同じ土俵ではなく、他の土俵に「選択と集中」をかけることにしました。

キリンはラガー(熱処理したビール)では圧倒的でしたが、「生」に対しては無関心で邪道と唱えているほどだったので、アサヒは「生」に一点集中しました。この結果発売されたのがスーパードライで、これが売れて六倍以上の差がついていたシェアが十数年かけて逆転することになりました。キリンはアサヒの攻勢を迎え撃つために、さまざまな味のビールを発売しましたが、そのために焦点が定まらず、アサヒに各個撃破されることになってしまいました。

まとめ

以上、「孫子の兵法」と事業所戦略についてでした。
今回は特に印象に残った格言に絞ってご紹介しましたが、まだまだたくさんの学ぶべき格言があります。

「孫氏の兵法」は非常に有用な戦略教科書ですが、数ある原理・原則の一つであり、例えこれを教条的に活用したとしても、どこまで成果が出るかはわかりません。結局、現実に即して、様々な原理・原則を基に、不要なものは捨て、必要なものを抽出した「自分なりの原理・原則」だけが、成果を出す上で本当に役立つものになるのではないでしょうか。

また、この原理・原則を活かすには、いかに応用し実践するかが重要になります。
日本海海戦で連合艦隊の参謀としてバルチック艦隊を破る原動力となった秋山真之は、これを「応用の才気」と述べています。実践家として成果を挙げるために必要なのは、この「応用の才気」に他なりません。

最後に、孫子の兵法で最も有名な格言の続きをご紹介したいと思います。

孫氏曰く、

彼を知り己を知れば、百戦して殆うからず。

彼を知らずして己を知らば、一勝一敗す。

彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆うし(必ず敗ける)。

 

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