正義の反対は? ~野原ひろしの「名言」とウルトラシリーズ「問題作」~

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ヴィラ杢園

「正義の反対は悪なんかじゃないんだ。正義の反対は『また別の正義』なんだよ。」

皆様こんにちは。
システム担当のまるです。

冒頭の台詞は「クレヨンしんちゃん」の父、野原ひろしの名言として有名です。
(他にも、「しんのすけ!命が大切なんじゃない!お前が大切なんだ!」など数多くの名言があるようです、実際は言っていないそうですが・・・)

言うまでもなく、この台詞が全てのケースに当てはまる訳ではありませんが、そのようなケースがあることもまた事実です。

子供の頃、ウルトラマンや戦隊ヒーローなどの特撮が好きでよく見ていました。
当時は話の意味もよくわからず、変身した正義のヒーローやロボットが、必殺技で悪い怪獣を倒すことが面白かったのですが、大人になってあらためて見返してみると、とても子供向けとは思えないような難しいテーマを持った作品が多いことに驚くことがあります。

今回はその中でも、「問題作」と言われているウルトラシリーズの作品をいくつかご紹介したいと思います。

完全にネタバレしています。「問題作」だけあって重く暗い話ばかりですのでご注意ください

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ノンマルトの使者 

ウルトラセブン 第42話(1968年7月21日放送)

人類は宇宙開発と共に海底の開発を進めていました。
海水浴に来ていたモロボシ・ダン(ウルトラセブン)とアンヌ(隊員)に、ある少年が海洋調査船シーホーズ号を指さし、「今すぐ海底開発をやめないと大変なことになるよ」と告げて去っていきました。
その直後、シーホーズ号は爆発炎上して沈没します。

ウルトラ警備隊の基地にも少年から、「海底はノンマルトのものなんだ」、「人間が海底の侵略者だ」という電話がきます。ダンは、「やはり、あのノンマルトの事なんだろうか?」と考え込みます。ウルトラセブンの故郷M78星雲では、地球人のことをノンマルトと呼んでいました。

近くの学校を探してもその少年は見つかりませんでしたが、海岸でオカリナを吹く少年を発見します。少年は真市と名乗りました。ノンマルトとは何なのか話を聞いてみると、

「本当の地球人さ」

「ずっとずっと昔、人間より前に地球に住んでいたんだ。でも、人間から海に追いやられてしまったのさ。人間は今では自分たちが地球人だと思っているけど、本当は侵略者なんだ」

「人間はずるい。いつだって自分勝手なんだ。ノンマルトを海底からも追いやろうとするなんて」

と答えて、海に飛び込み姿を消しました。

その後、ノンマルトが人間から奪った原子力潜水艦が地上へ向けて砲撃を開始します。艦内では人間の形をした知的生命体が操縦していました。自分たちを海底に追い遣った人類に対し、生存をかけて戦うことを決意したのです。

ノンマルトが操る怪獣も姿を現します。ダンはウルトラアイ(変身するためのアイテム)を取り出しますが、そこに真市少年が現れます。

「ノンマルトは悪くない。人間がいけないんだ。ノンマルトは人間より強くないんだ。攻撃をやめてよ!」

「ウルトラ警備隊の馬鹿野郎!」

ダンは動揺しますが、ノンマルトと怪獣を放っておく訳にもいかず、

「真市君。僕は戦わなければならないんだ」

と、ウルトラセブンに変身して怪獣を倒します。

一方、海底に逃走するノンマルトの潜水艦を追跡していたウルトラ警備隊の潜水艦は、海底に複数の建物を発見します。それは、人間達の侵略によって住処を追放され、静かで平和に暮らしているノンマルトの海底都市でした。

キリヤマ(隊長)は、「我々人間より先に地球人がいたなんて・・・。そんなバカな。やっぱり攻撃だ」と、苦悩の末、ノンマルトの海底都市をミサイルで攻撃し、無防備な海底都市は跡形もなく壊滅、ノンマルトは全滅しました。

「我々の勝利だ!海底も我々人間のものだ!これで再び海底開発の邪魔をする者はいないだろう!」と、キリヤマは勝利宣言します。

ダンは、「真市君の言った通り、ノンマルトが地球の先住民なら、もし、人間が地球の侵略者だとしたら・・・」と、沈んだままでした。すると、「ウルトラ警備隊の馬鹿野郎!」と、真市の声が聞こえてきます。

その場所に行ってみると、真市の姿はなく、小さな墓に花を手向けている女性がいました。女性は、2年前にこの海で子供を亡くした母親でした。その子は海が大好きで、毎年ここに連れてきていたと言います。

その墓には、

「真市安らかに」

と刻まれていました。


侵略者から地球を守るという「正義」を根底から覆す話です。
アンヌが真市に言った、「私は人間だから人間の味方よ」、「真市君は人間なんでしょ?だったら人間が人間のことを考えるのは当たり前じゃない。海底は私たちにとって大切な資源なのよ」という台詞が、「正義」の本質を表しているように思えてなりません。

故郷は地球

ウルトラマン 第23話(1966年12月18日放送)

東京で行われる国際平和会議に出席する各国の代表者が乗った飛行機や船が、「見えない円盤」の攻撃によって次々と破壊される事件が発生していました。

「見えない円盤」の目的は国際平和会議の妨害と判断した科学特捜隊は、イデ(隊員)が開発した装置で見えない円盤を破壊することに成功しましたが、中から巨大な怪獣が現れました。

パリから派遣されてきたアランは、その姿を見て驚愕します。
ハヤタ(ウルトラマン)がその訳を聞くと、アランは言いました。

「諸君、あれは怪獣ではありません。あれは・・・いや、彼は我々と同じ人間なのです」

その正体は、かつて某国が打ち上げた有人衛生に搭乗していた宇宙飛行士ジャミラでした。
彼の乗っていた宇宙船は遭難し、宇宙を漂流した末に水も空気もない惑星に不時着しましたが、某国は実験失敗による国際社会の批判を恐れてこの事実を隠蔽しました。

ジャミラはその惑星の過酷な環境が影響して、怪獣の姿に変貌し、自分を見捨てた地球に復讐するために現れたのでした。

そのことを知ったイデは同情し、「俺があんな装置を作らなければ・・・」と、戦うことを放棄しようとします。しかしアランは、ジャミラの正体を明かすことなく、宇宙から来た一匹の怪獣として葬り去るよう命令しました。

ジャミラは科学特捜隊や防衛軍の攻撃を受け、苦しみながらも国際平和会議会場に進撃し、世界各国の国旗をへし折り、憎悪を込めて踏みにじります。

ハヤタはウルトラマンに変身して、ジャミラに大量の水を浴びせます。
水に弱いジャミラは体が崩れ、断末魔をあげながらもがき苦しみます。
それでも既にズタズタになった各国の国旗を叩き続け、その動きはやがて弱まっていき、ついに絶命しました。

夕陽の中、科学特捜隊によって小さな墓標が立てられました。
ムラマツ(隊長)は墓標に語り掛けます。

「ジャミラ、許してくれ・・・。だけどいいだろう、こうして地球の土になれるんだから。お前の故郷、地球の土だよ・・・」

後日、国際平和会議は無事に開催され、会場にはジャミラの石碑が立てられました。

「人類の夢と科学の発展のために死んだ戦士の魂 ここに眠る」

その石碑をみたイデは言います。

「犠牲者はいつもこうだ。文句だけは美しいけれど」


表向きの都合のいい「正義」と、復讐という「正義」の話です。
誰もがジャミラの立場なら同じことをするかもしれないと思いました。
イデの最後の台詞が、この悲しい出来事に対する心情をよく表していると感じました。

超兵器R1号

ウルトラセブン 第26話(1968年3月31日放送)

幾度となく宇宙怪獣からの侵略を受けてきた地球防衛軍は、地球の防衛、および侵略の抑止のため、惑星そのものを完全に破壊できるほどの超兵器R1号の開発に成功します。ウルトラ警備隊はその性能テストのため、地球への影響がなく、とても生物の住めそうにないギエロン星を破壊目標として定めます。

「これで地球の防衛は完璧」と喜ぶ隊員達に、ダンは「地球の防衛のためなら何をしてもいいんですか?」、「こんな兵器を作っても、侵略者はさらに強力な兵器を作ってきますよ!」と問います。先輩隊員は、「それならさらに強力な兵器を開発すればいい」と答えます。

ダンは言います。
「それは血を吐きながら続ける悲しいマラソンですよ」

実験は成功し、ギエロン星は宇宙から消滅しました。

しかし、ギエロン星には生物がいました。その生物はR1号の放射能で異常進化を遂げ、ギエロン星獣として復活し、母星を、仲間を滅ぼした地球人への復讐のために地球まで飛来します。

その姿を見たダンは、「僕は絶対にR1号の実験を妨害するべきだった。本当に地球を愛していたのなら、地球防衛という目的のためにそれができたのは僕だけだった」と後悔します。

倒す度に復活し強化されていくギエロン星獣は、放射性ガスを吐きながら暴れ回ります。最早通常の兵器では倒すことはできないと判断したR1号の開発者は、「この事態を解決するにはR2号を使うしかありません」と言います。R2号はR1号のさらに数倍の威力を持つ超兵器でした。

ダンはウルトラセブンに変身して、躊躇しながらも、なんとかギエロン星獣を倒します。
金色の血飛沫を噴き出して、ギエロン星獣は静かにその瞼を閉じました。

R1号の開発者は、「血を吐きながら続ける悲しいマラソン」というダンの言葉を聞くと、「人間という生物はそんなマラソンを続けるほど愚かな生物なんでしょうか?」と、この事件を悔い、R2号以降の超兵器の開発を凍結することを上層部に進言するとダンに約束します。

ダンは滑車の中で走り続けるリスをずっと見つめていました。


侵略者から地球を守るための超兵器が、逆に地球の危機を引き起こしてしまうという皮肉な話です。冷戦当時の核開発競争を揶揄していると思われます。明らかに人類側に非があるにも関わらず、「正義」のためにギエロン星獣を倒さなければならなかったダンの心境は、どのようなものだったのでしょうか。

怪獣使いと少年

帰ってきたウルトラマン 第33話(1971年11月19日放送)

嵐の夜、一人の少年が怪獣から逃げていました。
そこに現れた謎の男が、不思議な力を使いその怪獣を地底深くに封印します。

その少年、佐久間良は毎日河原の土を掘り返していました。
いつからか宇宙人だと噂されるようになった良は、近隣の中学生からいじめを受け、土の中に埋められた上に頭から泥水をかけられ、その状態のまま自転車ではねられそうになったところを郷秀樹(ウルトラマン)に助けられます。「何で酷いことをするんだ?」という郷に、中学生は「あいつは宇宙人だから倒してくれ」と言ってきます。

郷が良の身元を調査したところ、北海道出身であり、上京した父親が蒸発し、母も亡くなったことから天涯孤独となり、父を訪ねて上京してきたことがわかりました。良は間違いなく地球人(日本人)でした。

雨が降りしきるなか、ボロボロの傘を持った良がパンを買いに来ると、店主は「後でいろいろ言われるのは嫌だから、悪いけどよそへ行ってくれ」とパンを売りませんでした。
とぼとぼと帰る良をパン屋の娘が追い、パンを渡します。

「同情なんかしてほしくないな」

「同情なんかじゃないわ。売ってあげるだけよ。だってうちパン屋だもん」

良は初めて「ありがとう!」、と笑顔を見せます。

廃墟へ帰ると郷が来ていました。郷は良が守っている金山という老人から、すべての話を聞いていました。良が「おじさん」と慕っている金山の正体はメイツ星人という宇宙人で、良が上京したのと同じ時期に地球の気候風土の調査のためにやってきましたが、怪獣に追われている良を見捨てられず、怪獣を封印して寒さと飢えに苦しむ良を保護し、河原の廃墟で共に暮らし始めたのです。良と金山には親子のような絆が芽生え、金山もこのまま良と地球で暮らしてもいいと思い始めていました。

しかし地球の環境汚染が金山の体を蝕み、埋まっている宇宙船を掘り返せないほどに衰弱してしまいました。良が探していたのは彼の宇宙船でした。

郷は宇宙船探しを手伝うことにしました。
良は「地球はいまに人間の住めない星になるから、宇宙船が見つかったらおじさんと一緒にメイツ星に行く」と言います。

その時、街の住人が大挙して押し寄せてきます。郷がいつまでも宇宙人を倒さないなら、自分たちでやっつけてやると武器を持って押し寄せてきたのです。

郷の静止も暴徒と化した人々には届かず、良が連れて行かれそうになった時、金山が飛び出してきます。

「待ってくれ!宇宙人は私だ!その子は私を守ってくれていただけだ、宇宙人じゃない!その子を自由にしてやってくれ!」

宇宙人を放っておくと何をするかわからないと、街の人々は金山に武器を向け、警官が放った銃弾で金山は命を落とします。良は泣きながら金山にすがり、郷は悔しさから地面に拳を叩きつけます。

その時、金山が封印していた怪獣が現れ町を襲います。驚き逃げ惑う人々は怪獣を退治してくれと叫びました。しかし郷はその場に座り込んだままです。

「勝手な事を言うな。怪獣をおびき出したのはあんた達だ。まるで金山さんの怒りが乗り移ったかのようだ・・・」

そこに隊長が現れます。

「郷、街が大変なことになっているんだぞ。郷、わからんのか?」

決意した郷はウルトラマンに変身し、怪獣を倒しました。

・・・

その後も、良は毎日穴掘りを続けていました。

「おじさんは死んだんじゃない。メイツ星へ帰ったんだ。だから僕も宇宙船でメイツ星へ行くんだ。おじさん、僕が着いたら迎えてくれよ。きっとだよ。」


全ウルトラシリーズの中でも、最大の問題作にして傑作として有名な話です。
過激な演出と救いようのない結末ゆえ、テレビ局上層部から痛烈な酷評を受け、監督は降格、担当した脚本家は干されることになったそうです。

この話を子供の頃に見ていたら、確実にトラウマになっていたと思います。
金山やパン屋の娘の優しさが、唯一の救いでした。
一度は戦うことを拒否し、それでも最後には戦った郷は、誰よりも、この戦いに「正義」など存在しないことを自覚していたのではないでしょうか。

「正義」について改めて考えさせられました。

まとめ

以上、ウルトラシリーズ「問題作」4選でした。

公開が延期してしまいましたが、庵野秀明監督の「シン・ウルトラマン」も近日公開されるようです。どんなテーマの作品なのか楽しみですね。

話は変わりますが、介護業界においてわかりやすい「正義」といば、「利用者様のため」というフレーズです。それは間違いなく正しいのですが、正しいが故に、このフレーズの前には何も言えなくなってしまうところがあると思います。

理想とされている個別ケア(利用者一人ひとりの個性やニーズに合わせたケア)や、利用者満足をどこまでも追求すると果てがなく、それは、別の正義(職員)を犠牲にすることになりかねません。「反対にある別の正義」の存在について知り、理解しようとすることは、これからの介護業界で必ず必要なことだと思います。

自分の正義を盲信して別の正義を躊躇うことなく踏み潰すのか、
別の正義の存在を噛みしめて、それでも自分の正義を貫くのか。

たとえ結果は同じだったとしても、この2つは決定的に違うのではないでしょうか。

 

採用情報|社会福祉法人あかね

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